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この21世紀COEプログラムについて

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この21世紀COEプログラムについて

プログラムの概要

1.はじめに
生物機能(運動、情報伝達など)を担うタンパク質分子は、20種類のアミノ酸という多元要素からなる自己組織系である。遺伝情報を担うDNAもまた、4種類の核酸塩基からなる多元要素系である。両者はあくまでも "モノ"である。生物機能は、これら物質としての多元要素が互いにエネルギーと情報をやり取りしつつ、時空間的に織りなす自己組織系の一つの様相と見なすことができるだろう。では、タンパク質やDNAとカーボンナノチューブや高温超伝導体、生物の階層構造と宇宙の階層構造との間にどのような共通性があるだろうか。これを記述する物理の言葉とはどのようなものだろうか。我々は、"自己組織系"という概念で生物・物質・宇宙を捉える。生物を含む自己組織系の中に21世紀物理学への新たな視点を求めるとともに、,物理学を志す若い世代に夢を伝えたい。



2.研究の目的
(1) 生物・物質・宇宙に現れる自己組織系を精密に測定し、理論を構築し、自己組織化を制御することにより新しい機能を創造する。
(2) 生物・物質・宇宙にまたがる自己組織系の新しい物理学を開拓し、世界に発信する。
(3) 理学的思考力と工学的センスを兼ね備えた、世界的レベルの若手研究者を育成する。

自己組織系を記述する第一原理的理論は存在しない。現在の物理学の枠組みでは、解明の糸口すら定かではない。非平衡系としての生体分子の集積機構や、超伝導物質の本質的不均一性の完全な解明はノーベル賞級の難問である。我々はこの難問に対して正面から向き合う。すなわち空論と思えるような奇抜な新概念に傾倒せず、高精度の測定結果に基づく堅牢で定量的な理論解析を行う。そして後世まで残る骨太な研究成果を積み重ねることによって、5年後には、世界第一(唯一かもしれない)の自己組織系物理学の総合研究機関となれるようあらゆる努力をする。


3.期待される成果
(1) 生物機能分子の機能発現・集積機構の解明
分子モーターなどのタンパク質機能発現機構の解明
細胞機能解明に向けた1分子イメージング手法の確立

(2) 電子・原子・分子の自己組織化現象を利用した機能性材料の設計と合成
表面制御による超高輝度電子ビームの開発
自己組織化ナノ構造制御による熱電/圧電/誘電材料の設計

(3) 自己組織系の理論的理解
測定結果の定量的解析を通じて従来の多体系の解析法(グリーン関数、くりこみ群、動的平均場など)を(少しずつでも)発展させ、後世まで残る結果を積み重ね、自己組織系の物理を精密科学へ昇華させる。

(4) 異分野間の共同研究による学際分野での研究成果発表
年間10件以上の共同研究成果発表、自己組織系に関する基本特許年間10件以上

(5) 博士後期課程の強化
博士後期課程の学生数・博士取得者数の倍増,学内競争原理の導入による活性化
諸外国の研究教育機関との国際的ネットワーク形成


4.社会的意義
本提案の目的は、自己組織系を理解し、制御する物理学の創造であり、20世紀の還元主義(少数の基本粒子の性質が理解できれば全てが理解できるという考え方)への挑戦である。特に21世紀は生物の時代といわれる。事実、国内外で「バイオ(bio)」の名を冠する研究教育機関が次々と創設され、遺伝子(ゲノム)解析に力が注がれている。しかし、ポストゲノム時代の基礎生命科学に求められているのは単なる遺伝情報の解読を超えた、生物を生物として成立させている物質的基盤、そこに働く基本原理の解明である。そして、生物の仕組み、例えば生物におけるエネルギー変換の分子メカニズムを理解するためには、生物機能に内在する普遍性を抽出し記述する物理学が必要なのである。

物理学の行き詰まりが見える現代は、20世紀初頭の量子力学誕生前夜に良く似ている。量子力学の完成は近代物理学だけにとどまらず、不確定性原理や観測問題を通じて我々の思想体系に強い影響を与えた。また量子力学が応用された半導体技術はコンピュータを中心とした情報革命をもたらし、我々の社会生活を一変させた。

ここで提案する自己組織系の物理学が発展し、生物・物質・宇宙に共通の言葉、これらに共通する記述体系が見出せたなら(あるいはその完成に向けての方向性だけでも見出せたなら)、その影響は20世紀の量子力学に匹敵する変革をもたらす可能性がある。少なくとも生物・物質・宇宙にまたがる多種多様な横糸を見出すこと、その過程には物理学としての未開拓の道があり、夢がある。本提案の遂行を通じて、物理を志す若者達に新分野開拓の夢を与えたい。

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